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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)4470号 判決 1974年5月16日

原告

塚田ヨツ

右訴訟代理人

寺坂吉郎

被告

日本交通株式会社

右代表者

川鍋秋蔵

右訴訟代理人

川添清吉

外一名

被告

橋本産業株式会社

右代表者

橋本内匠

右訴訟代理人

田中登

外一名

主文

一  被告日本交通株式会社は原告に対し、二四一万九七五二円及びこれに対する昭和四七年六月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告の、被告日本交通株式会社に対するその余の請求及び被告橋本産業株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告日本交通株式会社との間に生じた分はこれを五分し、その一を原告のその余を同被告の負担とし、原告と被告橋本産業株式会社との間に生じた分は、これを原告の負担とする。

四  この判決は第一項につき仮に執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一、被告らは各自、原告に対し三二七万二五五二円及びこれに対する昭和四七年六月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

第二  請求の趣旨に対する答弁

(被告日本交通株式会社)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

(被告橋本産業株式会社)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決及び原告勝訴の場合には担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

第三  請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四五年一二月三一日午前二時一〇分頃

(二)  発生地 東京都渋谷区富ケ谷一丁目一三番先路上

(三)  被告車 (イ)プリンスHA三〇型小型乗用自動車(品川五を二九二六号、ハイヤー)

運転者 河野健(以下河野という)

被害者 原告(乗客)

(四)  被告車 (ロ)ふそうT六二〇改造型普通特殊用途タンク車(品川八に一一五八号)

運転者 西山啓志(以下西山という)

(五)  態様 被告車(イ)は乗客である原告及び宮本節子(以下宮本という)を降すため前記路上に停止し、宮本が車から降りるため客席の左側ドアを少し開けたところ、被告車(ロ)が右被告車(イ)の左側を通りぬけようとして右被告車(イ)のドアに接触し、そのため客席にいた原告は衝撃を受け、頭を客席後部右角にぶつけた。

(六)  原告の傷害部位、程度

(1) 傷病名 頸椎捻挫、腰椎捻挫

(2) 治療経過 昭和四五年一二月三一日井上病院で治療を受け、昭和四六年一月二日から同月三一日まで同院入院、同年二月五日から五月一〇日まで山梨温泉病院に入院、同月一四日から現在に至るまで小林医院に通院治療中(同年七月五日までの通院実日数三一日)

(七)  後遺症

症状 大後頭神経痛、頸性頭痛後遺症があり、今なおくびすじや頭が重苦しく具合が悪い。

二、(責任原因)

被告日本交通株式会社(以下被告日本交通という)は被告車(イ)を、被告橋本産業株式会社(以下被告橋本産業という)は被告車(ロ)をそれぞれ所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

三、(損害)<省略>

四、よつて、原告は被告らに対し三二七万二五五二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年六月四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四  被告らの事実主張

(被告日本交通)

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)のうち被告車(イ)が停止したのは乗客を降すためであつたことを否認し、その余の事実は認める。(六)のうち傷害の事実、部位は認めるが、程度は不知。(七)は否認。

第二項中被告日本交通が運行供用者であることは認める。

第三項中被告日本交通が五〇万円を支払つたことは認め、その余の事実は否認する。

二、(事故態様に関する主張)

被告車(イ)は、先行車が停車していたので、これに続いて停車した。その際原告と共に同乗していた宮本が、目的地寸前であつたため、ドアを開いたところ、被告車(イ)の左側を通り抜けようとした被告車(ロ)がこれに接触した。

三、(抗弁)

(1) (免責)右のとおりであつて、河野には運転上の過失はなく、事故発生は酒に酔つた原告と同乗していた宮本が開けるべき場所でないのに勝手にドアを開けた過失によるものである。また被告日本交通には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車(イ)には構造上の欠陥も、機能の障害もなかつたのであるから、同被告は自賠法第三条但書により免責される。

(2) 過失相殺

被告橋本産業の主張を援用する。

(被告橋本産業)

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)のうち、被告車(ロ)が被告車(イ)のドアに接触した時点及び原告が打撲した事実を否認し、その余の事実は認める。(六)、(七)は否認。なお本件事故と原告主張の傷害とは因果関係のないことは後記主張のとおりである。

第二項中被告橋本産業が運行供用者であることは認める。

第三項中被告日本交通が五〇万円を支払つたことを認め、その余の事実は否認する。

二、(事故態様に関する主張)

(1) 本件事故現場は、原宿駅方面より山手通りに至る深町交差点(以下本件交差点という)手前である。車道は中央がグリーンベルトで区切られ、片側車線は幅員10.05メートルで白線により三通行区分帯に区切られ、各通行区分帯の幅は約3.3メートルである。

(2) 西山は被告車(ロ)を運転し、参宮橋方面から右折して本件道路に入り、歩道寄り通行区分帯を時速約一〇ないし二〇キロメートルで走行した。本件交差点の信号は青であり、被告車(イ)、(ロ)(両車とも一団の車の最後尾であつた)の先行車はどんどん交差点を通過していた。

(3) 西山は右折後本件道路の歩道寄り通行区分帯に入つたとき、斜め右前方に、中央通行区分帯を走行していた被告車(イ)をすぐ確認した。

(4) 両車がほぼ併進状態に入つたとき、突然被告車(イ)が、中央通行区分帯の停止線手前約一〇メートルのところに停車し、被告車(ロ)の前半分が通過したときに、被告車(イ)の後部左側のドアが開き、ドアの先端と被告車(ロ)の右側中央部付近にある工具箱とが接触した。

(5) 右のような事情であつて、西山にとつて、青信号でしかも中央通行区分帯の停止線手前約一〇メートルのところに停車した車の左側後部ドアがいきなり開くことは全く予見することは不可能であり、衝突を回避するようなことは出来なかつた。

(6) 原告はバー「ドラゴン」のママであり、宮本はその使用されているホステスであり、両者とも午前二時の閉店後とて相当飲酒しており、被告車(イ)に乗るときの指示は、バー「ドラゴン」より本件交差点の角にある「おにぎり屋」迄であり、原告が後部座席の右側、宮本が左側に坐つた。そして被告車(イ)が交差点手前一〇メートル、すなわち目的地の「おにぎり屋」まで二〇ないし三〇メートル手前まで来たので、原告、宮本が停車を命じ、停車地点で宮本が飲酒により注意力が散漫のこともあつて後方左側の安全確認を全くせずに左後部ドアをあけたものである。

(7) なお衝突の程度は全く軽微である。ドアーと工具箱の接触音も「ガシャ」と音がした程度で、車輪の前後左右の移動もなく、車内において原告は頸部を打撲した様子もなく、過伸展、過屈曲の頭頸部移動も全くない模様である。従つて、原告主張の損害と本件事故との相当因果関係はない。

三、(抗弁)

(1) (免責)

右のとおりであつて、西山には運転上の過失はなく、事故発生は、運転者にも告げず独断で突然宮本がドアーを開いた過失、原告がそれに加担し、制止しなかつた過失、と河野が原告が降車しようとするのを制止しなかつた過失によるものである。また、被告橋本産業には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車(ロ)には構造上の缺陥も機能の障害もなかつたのであるから、同被告は自賠法第三条但書により免責される。

(2) (過失相殺)

仮に、西山に過失があるとした場合、本件は、ハイヤーが道路中央に停止しているのに、運転者にも告げず、宮本が独断で不注意にドアを開いた過失に基づくものであるところ、原告はこれに加担している過失があるから原告の過失として、仮にそうでないとしても宮本は事故時原告に雇用されていた者であるから、同人の過失を原告(被害者)側の過失とし(すなわち、原告は、宮本に本件損害賠償を請求しない地位にあり、かつ現実に請求してなくその意思もない)宮本の過失と同じ割合により、原告の損害額算定につき斟酌すべきである。

第五  抗弁事実に対する原告の認否と反論

被告らの各抗弁はいずれも否認する。

(1)  本件事故現場は、深町派出所前交差点から本件交差点に至る間の道路上でありその概況は別紙第一の見取図のとおりである。事故当時、現場付近には通行区分帯の白線はなかつた。

(2)  本件事故当日(昭和四五年一二月三〇日)原告は翌日から営業を休むので、午後一〇時に店を閉め、掃除、あと片付等をした後、途中食事をして自宅に帰るため、被告日本交通にハイヤーを頼み、被告車(イ)にホステスの宮本と乗車し、帰宅途中に本件事故にあつたもので、当日原告は、ウイスキーの水割り一杯とビール中瓶一本半位しか飲酒していず、宮本はビールをグラス一杯だけしか飲んでいなかつた。

(3)  被告車(イ)に乗車した原告らは、原告が後部座席の右側(進行方向に向つて。以下同じ)に、宮本が左側に坐つた。被告車(イ)は、渋谷方面から深町派出所交差点を左折して本件事故現場に至つたが、途中「その」という小料理屋に寄つて食事をするため、右交差点を左折する前から原告が運転手の河野に「左に曲つたらすぐとめて貰うから」といい、車が左に曲つてから宮本が「そこでいいですよ」といつて、河野が車をとめた。河野が車をとめた位置は、別紙第一の見取図のとおりであり、遊園地となつている道から出た先のところで、歩車道の境の線から、被告車(ロ)が被告車(イ)の左側をやつと通れる位の間隔を置いた場所であつた。

被告らは、被告車(イ)が、本件道路の中央区分帯すなわち道路の真中に停車していたと主張するが、これが、本件事故後に作為された、事実に反するものであることは、次のことからも明らかである。すなわち、本件事故当時、本件道路の車道には通行区分帯を示す白線は引かれていなかつたが、仮に白線が引かれていたとすれば、車道の幅員が10.05メートルであるので、歩道に一番近い白線は歩道の(車道寄りの)端から3.35メートル(10.05メートルの三分の一)位の所に引かれていたはずである。被告車(ロ)は歩道すれすれの所を通り抜けようとしたのであつて、歩道の端との間に三〇ないし四〇センチメートルもの間隔があつたとは到底思われないが、仮りに証人西山啓志の証言を採用し、同車が歩道の端から三〇ないし四〇センチメートルの間隔を置いて進行したとしても、同車の全幅が2.15メートルで、被告車(イ)の幅が1.695メートルなので、被告らが主張する、同車が本件道路の中央通行区分帯に停車していたというようなことがあり得べからざることであることが明らかである。

(4)  当日は大晦日の深夜午前二時過ぎであつたので車は少く河野が事故現場に車をとめた時、先行車はなく、まわりにも車がなかつた。

(5)  宮本にいわれて河野が被告車(イ)をとめてから原告が、河野に食事をしてくる間待つていてくれるよう頼み、更に原告と宮本はそのまま車内においておく荷物と、携帯して行く所持品を片付けたり、置きかえたりしてから、宮本がドアを開けようとしたので、停車後同人がドアを開けるまでの間かなりの時間があつた。

(6)  本件事故の状況は、被告車(イ)と(ロ)がほぼ併進状態に入つたときに、突然被告車(イ)が停車し、被告車(ロ)の前半分が通過したときに被告車(イ)の後部左側のドアが開いたというようなことでは全然なかつた。

(7)  以上要するに、本件事故は、被告車(イ)の運転手河野が車道の歩道寄りの端にきちんと車をとめないで乗客を降ろそうとした過失と、被告車(ロ)の運転手西山が、前方をよく注視していたならば、前方の中央よりも左に被告車(イ)が停車して乗客が降りようとするのを現認し、或いは察知、予期しえたのに、前方注視を怠り、被告車(イ)の右側でなく、左側を無理に通り抜けようとした過失とが競合して、本件事故に至つたものである。

(8)  なお、証人西山啓志は事故時の被告車(ロ)の速度は、時速三〇キロメートル位であると供述するが、本件事故後被告車(ロ)が停車した位置は、証人河野健の証言によると、被告車(イ)とほとんど併行か、被告車(ロ)の先の方が少し出ていたくらいで、出ていたとしても一メートル以内だということであり、被告車(ロ)の全長は、6.12メートルで、被告車(イ)の長さは4.69メートルである。

右事実に基く二車の位置関係と時速三〇キロメートルの車は一秒間に8.3メートル進む計算になること、被告車(ロ)の空走距離、滑走距離とを含めた広義の制動距離とを考えると、被告車(ロ)の速度が三〇キロメートルであつたとの証人西山の証言及びこれに基づく被告らの主張は全く事実に反すること明らかである。

第六  証拠関係<省略>

理由

第一(事故の発生と責任の帰属)

一請求原因第一項(一)ないし(四)、同第二項中被告らがいずれも運行供用者の地位にあることは当事者間に争いがない。そこで本件事故態様について検討する。

二(一)  <証拠>によれば次の事実が認められる。

(但し本件事故当時、通行区分帯を示す道路標示がなされていたか否かは、本件証拠によつて確定することができないので以下においては、便宜上仮に道路標示により三車線の通行区分帯が設けられているとした場合を想定して被告車(イ)(ロ)の進行方向から向つて左側から第一、第二、第三車線と呼んでおよそ位置関係を示すことにする。従つて一車線の幅はほぼ3.3メートルとなる。)

(1) 本件事故現場は深町派出所前交差点から深町交差点方面に通ずるアスファルト舗装の道路上(以下本件道路という)であり、道路中央に幅員約7.4メートルのグリーンベルトがあり、車道幅員はグリーンベルトをはさんで片側約一〇メートルである。現場付近道路状況は概ね別紙第二のとおりである。

(2) 河野はハイヤーである被告車(イ)に、原告の経営するバー「ドラゴン」(都内渋谷区渋谷一丁目所在)から、原告及び宮本を乗客として乗せ、代々木八幡方面に向うべく本件道路に差しかゝつた。後部座席右側(原告らの進行方向に向つて。以下同じ)に原告、左側に宮本が座つていた。

(3) 当時河野はハイヤーの運転歴は二か月位で、それ以前は自家用車の運転手であつた。原告らはそれまで被告日本交通のハイヤーをしばしば利用していたが、河野運転の車に乗車するのは当日が初めてであつた。

(4) 河野は深町派出所前交差点を左折し本件道路の第二車線を走行して来たところ、深町交差点(以下本件交差点という)の対面信号機が赤色を表示していたので前車に接して停車した。停止した位置は、本件交差点手前の停止線から一〇ないし二〇メートルの地点であり、被告車(イ)の前には、二台位の先行車が停車していた。

(5) 西山はタンクローリ車である被告車(ロ)を運転し、深町派出所交差点を参宮橋方面から右折するため、同交差点中央付近で対向車の通過を待つた後本件道路を時速一〇ないし二〇キロメートルで第一車線を進行した。同人は本件交差点を左折するつもりであつた。第一車線には被告車(ロ)の先行車はなかつた。直進状態になつて西山は、被告車(イ)が先行車に続いて止つていること、間もなく先行車の方は信号が青になつて発進していつたのに、被告車(イ)のみがなお停車しているのを認めたが、そのまゝ第一車線を時速二〇キロメートル位で通過しようとした。

(6) 原告と宮本は、当時本件交差点手前左側にあつた小料理屋「その」に寄るつもりであつたので目的地についたと思い停車した被告車(イ)から降りる用意をした。そして宮本が後方の安全を確認することなく、被告車(イ)のドアを約一〇センチメートル開けたところ被告車(ロ)が左側を通過し、被告車(イ)のドアと被告車(ロ)の中央より後部にある工具箱が接触した。宮本がドアを開け初めてから一〇センチメートルほど開けて被告車(ロ)と接触するまではごく短時間であつた。

右接触により被告車(イ)は若干前に移動し、接触したドアは下に斜に下つた。

(7) 西山は接触したのでブレーキをかけ、被告車(ロ)は被告車(イ)より先端が一ないし数メートル出たところで止つた。

(8) 被告車(イ)の長さは4.69メートル、幅1.695メートル被告車(ロ)の長さは6.12メートル、幅は2.16メートルであつた。

(二)  (被告日本交通の責任)

(1)  河野としては、宮本らが前認定のような停車位置で降車しようとしたのであるから、これを制止すべく、仮りに宮本らを降車させるとすれば、後方の安全を十分に確認してから自からドアを開けるか、仮に宮本が開けるのに任せるならば、後方の安全を十分に確認してから開けさせるよう注意する義務があつた。

(2)  被告日本交通は宮本らが勝手にドアを開けたと主張するが、証人河野健の証言によつても被告車(イ)が停車後宮本がドアを開ける頃までには、河野も宮本らがその位置で降りようとしていたことは知つていた疑いが濃く、本件全証拠によるも河野が知らない間に宮本がドアを開けたということを認めるに足りる証拠はなく、そうとすれば、河野は前記運転者としての義務を十分尽したことの立証は出来ないことになる。

そして被告車(イ)を所有し、運行供用者の地位にあることを争わない被告日本交通は、運転者たる河野に前記のとおり過失が認められる以上、免責される余地なく、本件事故につき運行供用者として損害賠償責任を負わなければならない。

(3) なお被告日本交通は、原告に対し過失相殺がなされるべきであると主張するが、前認定の事実から原告に過失相殺すべきほどの過失は認められず、宮本の過失をもつて原告の損害賠償額算定につき斟酌することも相当でないので、この点に関する同被告の主張も採用出来ない。

(三)  (被告橋本産業の責任)

(1) 前認定のような状況で参宮橋方面から右折進行して来た被告車(ロ)の運転者西山に対し、要求される注意義務を考えると、先ず西山が被告車(ロ)を運転して時速約二〇キロメートルで進行し、第二車線に停車している被告車(イ)の左側を通過しようとしたことには何ら責はない(第二車線停車中の被告車(イ)の発進が少しばかり遅れていると認識したからと云つて、特段の事情がない本件において同車の左側ドアが開けられることまで予測し、減速したり、手前で転把或いは停車をする義務はない)。また被告車(ロ)が被告車(イ)の側方を通過しはじめてからは、同車の車体との接触を避けるよう避行すべきことは、当然であるけれども、特段の事情のない本件において、同車のドアが突然開けられた場合に接触を避けられる間隔をとつたり、減速したりする義務はない。そうすると西山に対し過失責任を問いうるためには、同人が通常の前方注意義務を尽していると右前方の被告車(イ)のドアが開き始め、そこで同人が急制動

の措置をとり、時速二〇キロメートルの被告車(ロ)が完全に停止するか、急制動のかわりに左へ転把しその停止或いは方向転換した同車の車体の工具箱(ないしは被告車(ロ)の右側でもつとも外側へ張り出した部分)が未だ一〇センチメートルほど開けられたドアの位置にまで達していないですむ(転把したときは、それ以前にドアから離れられる)という条件が充たされる必要がある。さもないと同人はドアとの衝突を発見回避することは不可能であるからである。

(2) しかしながら前認定のとおり被告車(ロ)の停止位置が被告車(イ)より一ないし数メートル先であつたこと、同車の接触個所が車体中央より後部の工具箱であつたこと、宮本がドアを開け始めてから一〇センチメートルほど開くのにはごく短かい時間であつたことの諸事実被告車(イ)(ロ)の長さ等を併せ考えると、宮本がドアを開き始めた時点では前記条件は充たされていない、言い換えると、被告車(ロ)の制動距離内ないしは、転把しても接触を避けられない範囲内に入つてからドアが開かれたと認めざるを得ない。そうとすれば、西山にとつて本件事故は予見も、回避も不可能であり、過失はなく、本件事故は宮本と河野の過失によるものと云うべきである。そして、右事実と証人西山啓志、同鈴木孝雄の各証言及びこれにより成立を認められる乙第六号証によれば、被告橋本産業には運行供用者としての過失はなく、被告車(ロ)には構造上の欠陥も、機能の障害もなかつたことが認められる。従つて同被告の免責の主張は理由がある。よつて同被告に対する原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

第二(事故と傷害の関係)

<証拠>によれば、原告は前認定の事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負つたこと(本件事故により原告が右部位に傷害を負つたことは原告と被告日本交通との間では争いがない)、その結果原告は昭和四五年一二月三一日井上病院で治療を受けた後、昭和四六年一月二日から同月三一日まで同院に入院、同年二月五日から五月一〇日まで山梨温泉病院に入院、同日退院後小林医院に通院し同年七月五日までの実日数三一日、その後同年中は週に二回位、その後は時折身体の具合が特に悪いときに通院する程度であること、その間マッサージ治療も何回か受けたこと、昭和四八年六月現在なお首筋が腫れていて、重苦しい感じがぬけず、特に気候不順の折具合が悪いなどの症状に悩まされていることが認められ、証人神原和夫の証言及びこれにより成立を認められる<証拠>をもつてしては未だ右認定を左右するに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

第三(損害)<省略>

第四(結び)

以上により、被告日本交通は、原告に対し二四一万九七五二円の支払をする義務があることが明らかである。

よつて原告の本訴請求中、被告日本交通に対し二四一万九七五二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年六月四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める限度でこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び被告橋本産業に対する請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。 (佐藤壽一)

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